2005年02月28日

小説『デースケドガー、狼狽す』

SEO:デースケドガー

本日付で配信した小説の再掲です。


    デースケドガー、狼狽す
               XQO

 デースケドガーは狼狽していた。まさかこの
自分が仮面を着けて他人の寝所に潜り込む羽目
になろうとは思いも拠らなかったからだ。
 潜り込んだのが殿方の寝所だから狼狽したの
だろうと言う指摘はこの場合正当ではない。デ
ースケドガーこと土瓦D輔(以降はこの国での通
称;デースケドガーで通すが)にとっては殿方
が恋愛の対象であるから、その点では心配ない。
 忍び込む先故の困惑は大いにある。
 彼が忍び込もうとして居るのは、グーグリェ
ンドゥ氏の屋敷内、ゴッゴル=デ・ラ=イオア
イの寝所だからだ。
 幾らグーグリェンドゥ氏の依頼とは言え…幾ら
骨牌勝負の負債の帳消しが保障されているとは
言え…デースケドガーの一片の良心は躊躇って
いたのである。その躊躇いを上回る悦びも彼の
内には存在していたのだけれども。

 思えばかなり奇妙な依頼である。
 『ゴッゴル=デ・ラ・イオアイの寝所に忍び
込み、彼の髪の毛を彼を起こさぬ様にこっそり
抜き取り持ち帰る事』
 幾らデースケドガーが世情に疎い暮らしをし
がちであるとは言え、この依頼に妙な思惑の匂
いが漂っているのは判る。依頼主がグーグリェ
ンドゥ氏ではなく、そして負債の帳消しが絡ん
でいないならば言下に断っている話だ。
 しかし、デースケドガーは依頼を受けた。グ
ーグリェンドゥ氏が頭を垂れて彼に依頼したの
である。これは、かなり心が動く要素だ。誰だ
って、惚れた相手に頭を下げられたら無碍には
出来まい。デースケドガーもそうであった。惚
れた相手の片割れの頼みだからこそ引き受けた
のだし、惚れた相手の片割れの物を盗むという
背徳感があるからこそ不謹慎にも気持ちが燃え
上がっている、そう言う自分を抑えきれる程彼
は老成していなかった。然様。彼デースケドガ
ーはゴッゴルとグーグリェンドゥ氏のひとつが
いに懸想しているのだった。これは、楽な様に
見えて厄介な恋路であろう。

 寝所の扉をそっと開けて抜き足差し足で忍び
込む。事前にグーグリェンドゥ氏がゴッゴルに
一服盛って仕事をし易くしてくれているとの事
であったが、念を入れて置くに越した事は無い。
 枕頭のサイドテーブルでは駝鳥の卵殻を細工
したランプが穏やかな光を放っていた。その表
面を彩る山水画を描いたのは他ならぬデースケ
ドガー自身だ。
 何を以って描いたかと言えばゴッゴルの髪で
作った筆。その髪の出所はこの屋敷出入りの理
髪師で、デースケドガーは鼻薬を嗅がせてそれ
を手に入れたのである。
 新たに髪を手に入れる好機である。が、彼は
今回筆を作るだけの量の髪を抜き取る気は更々
持ち合わせていなかった。彼は只一筋の髪を欲
していたのである。ゴッゴルの体から抜き取っ
たものではなく、自然と抜け落ちた只一筋を。
依頼の為とは言えゴッゴルに痛みを与えるつも
りは毛頭無い。グーグリェンドゥ氏に差し出す
つもりの髪も、枕に落ちたものにしておこうと
心に決めていた彼であった。
 息を潜めて、微かな灯りに照らされた枕の上
を探る。先ず、一筋。そしてもう一筋。恐らく
今探している側の反対側に回ればもう二筋は見
つかる事だろう。三筋も持ち帰れば責められは
すまい。そう思って反対側へ回ろうとした矢先
であった。
 「髪は充分に梳かしたから、もう見つかりは
すまいよ」
 ゴッゴルの静かな一言は、彼を石にするのに
充分な力を持っていた。

 「悪いな。道楽に付き合わせて」
 「全くだ。俺の純情をどうしてくれる」
 枕元の灯りを増やして酒を酌み交わす二人。
片やからかう側であり片や見事にからかわれた
側。後ろから糸を引いた男も恐らく今頃祝杯を
あげているに違いない。
 「好かれて悪い気はしないが、堂々と好かれ
たいものでな。一寸策を練らせて貰った」
 「間男になる趣味は無いからな。それに俺は
二人に懸想しているのだし」
 「それよ。それならいっそ、そなたも此処に
住まわぬか?」
 「断っても住まわすのであろう?」
 「無論だとも。その方が退屈もしのげるしな」
 そして不意に奪われる唇。それがこの誘いの
手付だと知り、デースケドガーは改めて狼狽し
た。              (了)
posted by 葡萄瓜XQO at 15:18| 大阪 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | SEO | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。